WOOD HUB

Vol.2 コストと構造を知ろう

Posted:
2020.08.26.

店舗や作業所、倉庫といった非住宅用途の建物を木造で計画する場合に知っておかないと後々困ることがあります。ここでは木造に適した建物規模や設計条件、コスト感についてや、構造設計事務所との協業についてお話していきます。

コストコントロールの考え方を知ろう

實成:第2回の講座では、中規模木造のコストと構造について説明をしていきます。まずはコストコントロールの話を具体的にしていきますが、今回は躯体費の話をしていきます。躯体費ってやりようによって大きく変わるものだからです。
コストを抑えながら進めるためのポイントは、なるべく住宅生産インフラを活用することです。木造の躯体費は、木材費+金物費+加工費の3つを積算したものなのですが、それぞれを住宅用と同じにすることで費用を抑えることができます。<画像>

實成:ただ、住宅で使われる流通材の長さは最大6mなので、「スパン8mの床梁がある2階建ての事務所を建てたい」っていう時には、特注材や制作金物が必要になります。その場合は、そういう特殊な場所にだけ特注品を使い、他の部分は住宅用と同じものを使うことで、コストを抑えながら自由度の高い空間をつくることができます。

村松:なるほど…。スパン8mでも、全てが特注材である必要はないんですね。

實成:そのためには、何がいくらくらい掛かるのかを知っておく必要があります。知らずにつくるというのは、レストランで値段を見ないで料理を頼むのと同じことですから。
まず一番大きいのが材料費用。一般流通材は材幅が105や120mm、材成は105と120~450mm(30mmピッチ)、材長は6m以下。集成材の樹種は、欧州アカマツ、ベイマツ、スプルース、スギの4種類が一般的です。樹種ごとに強度も決まっています。今話した規格の物が流通材で、それ以外はすべて特注材になります。<画像>

實成:で、コストの差ですが、特注材は流通材の2.5~3.5倍にもなるんです。それが「○○産檜の集成材」になったりすると4倍になることもあります。

村松:かなり大きな差になりますね…。

實成:次に金物ですが、基本的には既製品の金物を使うことを推奨しています。コストは住宅に使われる既製品の場合は1点数百円~数千円程度。一方オーダーメイドの制作金物になると、1点数万円になります。なので、特別に荷重がかかる場所にだけ制作金物を使うようにして、制作金物の数を増やさないことが大事ですね。<画像>

村松:住宅をやっていると制作金物を使う機会がなく馴染みがないんですが、制作金物はきちんとした強度が出るものなんですか?

實成:制作金物は学会基準に則って計算して設計して制作されているものなので大丈夫ですよ。ちなみにうちでは、そういう金物の設計もやっています。
次に加工の話に行きますね。加工を行うプレカット工場に住宅用自動機ラインというのがあって、これを使うと住宅1棟分の加工がたった3時間で完了するんですよ。めちゃめちゃ効率がいいんです。
一方、特注の加工にはフンデガーK2という機械が多く使われるんですが、手間が掛かるものだと登り梁が1本出てくるのに2時間くらい掛かります。当然加工に掛かる費用も全然違ってきて、住宅用自動機ラインの3~5倍くらいになります。<画像>

村松:掛かる時間がそんなに違うんですね!特注だと高くなるのも納得です。

實成:ざっと材料・金物・加工のコストの話をしてきましたが、設計者がこの感覚を知っていないと、予算内にまとめることは難しくなります。
では、次にどのように構造を計画していくかという話に行きますね。

構造を考える上で重要な4つの要素

實成:構造要素の計画は、だいたい次の4つに絞れます。<画像>

實成:1つ目の「床スパンへの対応」ですが、6m超の床梁は素直に特注材の大断面になると思った方がいいです。「長さが6m超えたら特注材になるんだ」と思って計画をしてください。<画像>

實成:ただ、構造用合板で水平構面をつくると1mピッチくらいで大梁が流れるのでそれぞれの梁端にそれほど大きな荷重はかからないんですよ。なので大梁端部は既製品の金物を2段使い(上の写真の右下の図)とすればコストを抑えることができます。

村松:ちなみに床スパンはどれくらいとばせるものなんですか?

實成:8mくらいまでが合理的ですね。1mピッチで大梁を流せば、梁成は500~600mmくらいで足りると思います。9mになると梁成が大きくなり、コストも掛かりますし建物の断面計画が難しくなります。ちなみにこの写真の建物はスパン7.2mで梁成は450mmくらいです。<画像>

實成:2つ目の「小屋スパンへの対応」ですが、小屋は流通材を三角に組んでトラスを組むのがコスト的にいい方法です。上の写真は福井県の小屋スパン12mの倉庫です。積雪2mを想定しているんですが、その時の重量は1つのトラスに観光バスが1台乗る程なんですよ。そうなると、さすがに箇所によっては制作金物じゃないと持たないので、合掌尻と下弦材の継手の部分(上の写真の右下の写真)にだけ制作金物を使っています。それ以外は既製品の金物を使ってコストを抑えています。
あと、この建物で工夫したのは上弦材(トラスの上側の部材)に付ける金物ですね。スパン12mの下弦材(トラスの下側の部材)は6mの部材を継げば足りるんですが、上弦材は傾斜が付いているので普通に組むと6.2mになり特注材になってしまうんです。そこで、制作金物を少し伸ばして、上弦材が6mになるように設計しています。物の値段を分かっていると、このような設計を考えることができるんです。

村松:なるほど、そういうやり方があるんですね!

實成:制作金物の形状をこのようにしても、特に大きくコストが上がるわけではないんです。<画像>

實成:3つ目の「開放性への対応」ですが、要は壁がないことへの対応という意味ですね。
上の写真は福井県の歯医者さんの建物ですが、テラスに向かって前面ガラスがあるデザインなんです。こちらも積雪2mを想定しており、耐力壁が足りていないので、ブースとブースの間のちょっとしたところにベースセッターという450mm幅の柱脚金物を入れて、安全性を確保しています。ベースセッターを使うことで高耐力な狭小耐力壁をつくることができます。開放性と安全性を両方取る必要がある場合に、この金物が便利ですね。<画像>

實成:4つ目の「耐力壁間距離(壁線間距離)への対応」ですが、木造の水平構面は弱いので耐力壁間距離を大きく取るのが難しいんです。そういう場合は、昔の木造校舎みたいに外側に控え壁をつくることで対応できます。<画像>

實成:ただ、これは土地に余裕がある場所じゃないと難しいですが。
2つ上の写真は十日町の倉庫ですが、耐力壁を2mくらい内側にとっています。もしそれが店舗などでつくりにくい場合は、先ほども出てきたベースセッターが有効です。450mmで済みますので。

村松:写真の右上に見える水平のブレースは何ですか?

實成:これは耐風用の水平トラスですね。階高が高くなると耐風対策を考える必要も出てきます。
第2回の講座は以上となります。今回はコストと構造について、専門的な話を交えて概要を説明させて頂きました。次回は業務フローの解説をしていきます。

實成 康治

ウッド・ハブ合同会社 代表

大手集成材メーカーで大断面木造建築物の設計・施工に携わった後、接合金物のトップメーカーである(株)タツミで中規模木造対応の接合金物「テックワンP3プラス」を考案し開発を担当。施工現場、コスト、設計、製品開発を知っている構造設計が持ち味です。新しいものを考える事が何よりも好きな、根っからの開発者です。「木質構造の設計情報を共有する会」(通称:木構造テラス)の代表理事でもあります。

村松 悠一

住宅設計エスネルデザイン 代表

「暖かい小さな家」を提案している設計事務所です。住宅の仕事についてからずっと「良い家とはどんな家だろう?」と考えてきました。世界一周の旅を経て感じたのは、良い家とは「ゆとりのある家」。具体的に言えば、暖かく家族が健康であること。そして、家計にゆとりがあること。それを叶えるために、「超高断熱」の「小さな家」を提案しています。これからの時代(価値観)にあったこれからの家づくりを提案しています。