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Vol.1 中規模木造の基礎知識

Posted:
2020.05.23.

店舗や作業所、倉庫といった非住宅用途の建物を木造で計画する場合に知っておかないと後々困ることがあります。ここでは木造に適した建物規模や設計条件、コスト感についてや、構造設計事務所との協業についてお話していきます。

今後10年で新築住宅市場規模が3割減る?

實成:では、第1回目の講座を始めます。タイトルにもあるように、中規模木造を始める上で知っておく必要がある基礎の話をしたいと思います。村松さんよろしくお願い致します。

村松:はい!よろしくお願い致します。

實成:最初に、これからの住宅市場がどうなっていくかという話からスタートしますね。住宅市場はどんどん縮小していくって以前から言われていたんですが、ここ4~5年は意外と減ってないです。でも、人口が減っていくのは確実で、今から10年後の2030年には3割くらい減るんじゃないか?って言われています。<画像>

村松:…こ、これは。いきなり恐ろしいグラフですね。。

實成:その時に過当競争の中に行くのか、差別化して高級路線に行くのか、いろいろな戦略がありますが、住宅市場だけを見るのではなく、私は「中規模木造という選択肢もありますよ」ということを伝えたいと思っています。

中規模木造で気をつけたいこと

實成:で、「中規模木造ってどんな建物があるの?」っていう話ですが、店舗や工場、倉庫や社員食堂、保育園などいろいろな建物があって、スパン10~15mくらいが中規模木造に適しています。<画像1><画像2>

實成:木造は、上に積むのは得意でないですが、平屋や2階建てはやりやすいんですよ。あと、よく中規模と大規模を総称して「中大規模木造」と呼んだりするんですが、この2つは全然違うものです。大規模は『新建築』などの雑誌に出るような規模の大きいもので、普段住宅などを手掛けている工務店さんや設計事務所さんが狙いやすいのは中規模木造ですね。

村松:たしかに、中規模なら住宅を設計している私たちにもできそうです。

實成:中規模木造をやる上で重要なポイントが2つあります。1つ目はコストコントロール。中規模木造をやろうと思ったら民間需要がほとんどですので、きちんとコストコントロールをして鉄骨造と同じくらいにしないと、木造でって話は議論のテーブルに載りません。2つ目は、住宅とは進め方が違うということ。この2つを押さえていないと、なかなかプロジェクトがうまくいかないんです。

木造住宅と非住宅木造、2つの違い

實成:そもそも「木造住宅」と「非住宅木造」で、構造とプロジェクト管理が大きく異なります。<画像>

實成:まずは構造の話です。スパン、階高、壁線間距離、これらが全て住宅よりも大きくなります。壁線間距離は住宅だと大きくても5~6mですが、非住宅になると30mとかになるんです。要は空間が大きいために、構造的にケアしなければいけない部分が多くなるということです。<画像>

實成:あと忘れてはいけないのが設計荷重も大きいこと。店舗や事務所になると住宅よりも積載荷重が大きくなるので、地震力も大きくなる。すると壁量計算だけでは当然ダメ。きちんとした構造設計、構造計算が必要になります。<画像>

實成:次に、プロジェクト管理の話をしますね。安全性を確認するために構造設計が必要になりますので、設計段階で構造屋と協業することになります。その設計期間は、調整する時間も含めて2~3カ月くらいは見ておく必要があります。もちろん構造設計の外注費用も発生します。

村松:構造設計の費用はどれくらい見ておくといいですか?

實成:規模にもよりますが、中規模木造の場合は50~100万円がボリュームゾーンですね。構造設計を外注したことのない工務店さんから「えっ!そんなに掛かるの!?」と言われることもありますが、それは木に限らず鉄でやっても同じように掛かる費用なんですよ。あと、材料に特注材が含まれると、発注してからプレカット工場に届くまで1~2カ月掛かります。そのような時間の感覚の違いも、住宅と非住宅の大きな違いですね。それにより、工程管理の仕方が全然違ってくるんです。

村松:特注材になるだけで、1~2カ月も時間が掛かるんですね…!(驚)

實成:今日の講座は以上となります。今回は中規模木造の概要をざっと説明させて頂きました。次回はコストと構造の解説をしていきますね。

實成 康治

ウッド・ハブ合同会社 代表

大手集成材メーカーで大断面木造建築物の設計・施工に携わった後、接合金物のトップメーカーである(株)タツミで中規模木造対応の接合金物「テックワンP3プラス」を考案し開発を担当。施工現場、コスト、設計、製品開発を知っている構造設計が持ち味です。新しいものを考える事が何よりも好きな、根っからの開発者です。「木質構造の設計情報を共有する会」(通称:木構造テラス)の代表理事でもあります。

村松 悠一

住宅設計エスネルデザイン 代表

「暖かい小さな家」を提案している設計事務所です。住宅の仕事についてからずっと「良い家とはどんな家だろう?」と考えてきました。世界一周の旅を経て感じたのは、良い家とは「ゆとりのある家」。具体的に言えば、暖かく家族が健康であること。そして、家計にゆとりがあること。それを叶えるために、「超高断熱」の「小さな家」を提案しています。これからの時代(価値観)にあったこれからの家づくりを提案しています。