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木質構造の実務的な設計情報や住宅生産インフラを活用するノウハウなどを業界紙に執筆しています。非住宅木造プロジェクトをスムーズに進めるためのコツをつかむTipsです。

民間需要の非住宅木造に対応するために

Posted:
2017.01.11.
掲載紙:
プレカットユーザーVol.16
カテゴリー:
プレカット

構造設計者とプレカット工場の連携がキーである

 東京オリンピックのメインスタジアムの意匠が木質を強くイメージしたものになるなど、木質構造に対する社会の関心が一段と高まっている。そういった追い風もあり民間需要でも「出来れば木造で建てたい」という案件が確実に増えてきており、木質構造を専門とした構造設計事務所の我社にも様々な方面から引き合いを頂いている。こういった状況は住宅市場の縮小を危惧する木造躯体業界にとっては非常にありがたい事であり、何とか自分たちのビジネスにするべく、ハウスメーカー、ビルダー、工務店、プレカット工場は対応を模索しているところだと思う。こういった動きは数年前から本格化している。しかし自分たちの対応策を持ち日常的な商材として非住宅木造建築に取り組めている会社は少ないのではないだろうか。

なぜなのか?

筆者が思うに「木造住宅」と「木造建築」は似て非なる物である。設計プロセス、施工プロセス、確認申請時に必要な図書などなど全てが少しずつ異なっている。この「少しずつ異なっている」のが曲者で一見、簡単に進められそうに思うがなぜかうまく進まない。この原因を一つ一つひも解いてみたい。

-原因1「構造設計が必要である」-

木造は本来S造、RC造と比べて弱い構造種別であるので建物の規模が大きくなると構造設計しないと怖い。混同されがちなので改めて説明するが「構造設計」と「構造計算」は違う。「構造設計」する手段が「構造計算」である。自分の考えた構造設計の妥当性を計算によって確認したものが「構造計算書」である。また、「確認申請の時に構造計算書が必要だから構造設計をする」訳ではない。法で求められている建物の安全性を確保するために「構造設計」を行うのである。下図に示す建物はどちらもいわゆる4号建築物であるがその大きさの違いに説明の必要はないだろう。一般的な住宅は建築としては非常に小規模であるのでよほどの無茶をしない限り構造的には何とか納まりがつくが、スパンや階高など規模が住宅サイズを超える様な建物はしっかり構造設計をしないと怖い。

では構造設計を依頼しようと思っても、住宅産業が付き合いのある構造設計事務所の多くは木造住宅の構造設計に特化した事務所が多く規模が大きくなると手に負えない場合が多い。ではS造、RC造を手掛けている構造設計事務所に依頼しようとしても、そういった事務所は木造を扱った事がない場合が多いし、規模の割には手間がかかって設計費も安くなりがちな木造は倦厭しがちである。となると構造設計してくれる人が居なくてプロジェクトは前に進まない。こういった事が非常に多いのではないだろうか?実は非住宅木造の構造設計をしてくれる人が非常に少ない状態にある。 
筆者が代表理事を務めさせて頂いている「木質構造の設計情報を共有する会(通称:木構造テラス)」はS造、RC造に携る構造技術者の方々に木質構造の設計情報を提供し、非住宅木造の構造設計の担い手になっていただく事を目標としている。

-原因2「設計の進め方が違う」-

木造住宅の場合「常識的な耐力壁の配置」は感覚的に業界として共有している感があり、設計の初期段階で構造設計者が構造検討をすることはほとんど無い。ほとんどの場合はプランが固まって、「じゃ、構造計算して」といった流れのように思う。 
住宅規模の建物であれば後付の構造計算でも何とかなるが、規模が大きくなるとそうはいかない。プラン自体がそもそも成立しない。先述のように木造は弱い構造種別であるので無理がきかない、無理をするとコストがかかる。このため基本設計の段階から構造設計者が関与し意匠と構造をすり合わせながら設計を進めて行く必要が有る。木造住宅的な進め方で「もう決まったプラン」をS造、RC造に携る構造設計者に持っていくと、おそらくかなり困るはずである。S造、RC造であればプロジェクト初期から構造設計者が関与する事が当たり前で、意匠設計者は基本設計が上がった段階で構造設計者に「柱わり」をして主要な柱・梁の仮定断面を出してもらうのが普通である。
木造住宅のみに携る各社を「木造住宅業界」とし、S造、RC造などいわゆるビル物に携る各社を「建築業界」とすると各々の業界の常識が似ているのだが少しずつ異なっている。また、ビル物を扱う「建築業界」は木造を知らない場合が多い。
「非住宅木造」は「木造住宅業界」と「建築業界」のどちらも担って来なかった領域と言えるだろう。

-解決策は協業-

民間需要の建物で最も重要なことはコスト合理性である。プレカット工場は住宅業界の中で鍛えられた非常に高い生産性を持っており、これは建築業界から見たとき目を見張るほどであり、非常に強力な武器となる。我社ではプレカットCADであるトーアエンジニアリングの「アルティメット」をメインに使って構造計算を行っており、構造設計の初期段階から金物の納まりを精査し、正確な積算資料によるコスト・コントロールを行いながら構造設計を進めている。このため設計の手戻りが非常に少なく、プレカット工場での加工も現場も非常にスムーズに進めることが出来ている。つまり建築プロセス自体の効率化を図ることが出来ている。しかし同じことを他の会社で行う事はハードルが高いので、下図のような連携を行う事を提案している。

前述のように現状は「プレカット工場は構造の事がわからない」し「構造設計者はプレカットの事がわからない」であり、両方を自社で行えるようになるには時間がかかる。そこで、プレカット工場と構造設計者が協業するスキームを作れば我社で行っているようなプレカットシステムを活用した非住宅木造への対応が可能になるのではないだろうか。
もちろん協業するためには「常識」を供給しお互いの仕事の進め方を理解する必要が有る。そのためにはプレカット工場も構造を少し理解する必要が有るし建築を理解する必要が有る。詳細図まで出来上がった図面を構造設計事務所に持っていったら「非常識なヤツ」なのである。構造設計者も木造について学ぶ必要が有る。構造図に「E120-F330スギ」と書いても市中で調達することは不可能である。「あいつらは分かってない」と言い合っていても何も生まれない。新たな市場ニーズに対応するビジネス・パートナーとなるためのヒントを次号以降で述べていきたい。

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